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東京高等裁判所 昭和48年(ネ)638号 判決 1974年6月21日

被控訴人 三井信託銀行

理由

当裁判所の認定判断は、次に加除訂正するほか、原判決の理由一、二(原判決書二枚目裏七行目より同七枚目表九行目まで)に説示するところと同じであるから、これをここに引用する。

原判決書三枚目裏三行目の「約束手形の振出し」を「他店振出しの小切手を引当てとして、被控訴人に自己宛小切手(預金引当小切手即ち、いわゆる預手)を振出させたこと」と訂正し、同四枚目表三行目の「右証人佐藤の証言だけから、かような合意したがつて消費貸借契約の成立を認めることはできないし」を「右証人佐藤の証言部分は措信できず」と訂正し、同裏九行目の「証人佐藤玄琢」の次に「(前記ならびに後記措信しない部分を除く)」を加え、同五枚目裏二行目の「ついたそれを果すことができ」を「ついにそれを果さ」と訂正し、同六枚目表九行目の「信用できず、」の次に「成立に争いのない甲第一ないし第四号証(同第三、第四号証については原本の存在についても争いない)を含め、」を加える。

原判決書六枚目表末行以下同七枚目表九行目までを除き、次のとおり、当裁判所の認定判断を示す。

以上認定の事実に徴して考えるに、まず、右(一)(二)のように、本件手形はもともと北炭の手形保証があつてはじめて価値あるものとして控訴人から被控訴人に担保として提供されたものというべきところ、控訴人は、北炭の手形保証に不備な点があると被控訴人から指摘されその補正を約しながらついにこれを果さず、被控訴人においては、当時北炭から、本件手形の符箋に手形金額の支払を保証する旨の記載があつてもこれは北炭が火災保険料支払いのために作成した証書にすぎず、手形保証として作成したものでない旨の連絡を受けていたという状況にあり(北炭が本件手形金額の支払を保証したとの控訴人の当審における主張事実を認めうる証拠はない。)、かつ、右(三)で認定したように、当時北炭の保証のほかには、振出人も裏書人も手形決済の資力がなく、このことを被控訴人は調査の結果知つていたのであるから、そのような状況のもとで、被控訴人が銀行としての信用保持を考慮して本件手形を取立てに廻さなかつたからといつて、譲渡担保権者としての善良な管理者の注意義務に違反するものということはできない。

そのうえ、前記認定によれば、少なくとも本件一の手形については、これを被控訴人が支払呈示しなかつたことにつきその支払期日、昭和二五年三月六日の当時控訴人会社の代表者たる佐藤において了承したところであり、かつ、原本の存在および《証拠》によれば、同年三月三〇日右控訴人会社代表者佐藤は当時被控訴人の新橋支店長であつた訴外高山慶一と共謀の上右佐藤の利益を図る目的をもつて高山が背任行為をして被控訴人に一億円を超える金額の損害を与えた容疑で逮捕され、約二カ月の勾留処分を受け、保釈の後同年九月起訴され、その余の起訴事実とともに昭和三〇年七月一二日東京地方裁判所によつて有罪(懲役二年六月)の判決が言渡されたことが認められ、前記昭和二五年三月六日当時以後も本件手形の振出人および裏書人に支払の資力ができたことないしは北炭が本件手形につき支払保証の義務を負うに至つたことを認めるに足りる証拠はない。

以上認定のような状況経過のもとでは、昭和二五年三月六日以降においても、被控訴人が本件手形につき控訴人主張のごとく支払呈示、白地補充その他時効中断の手続をとる等手形債権保全のための措置をとらなかつたからといつて、善良な管理者の注意義務に違反するものということはできない。

したがつて、本件手形の譲渡担保権者としての被控訴人の注意義務違反を前提とする債務不履行に基づく控訴人の請求は、その余の争点について判断するまでもなく失当である。

また、右のように被控訴人に注意義務違反が認められない以上、その注意義務違反を前提として被控訴人の不法行為責任を問う控訴人の請求も、その余の点につき判断するまでもなく失当というのほかない。

よつて、控訴人の請求をすべて棄却した原判決は正当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却

(裁判長判裁官 安倍正三 裁判官 中島一郎 桜井敏雄)

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